仏壇前の提灯

お葬式と宗派の歴史について


日本ではほぼ9割が仏式のお葬式を行っています。その歴史も長く、ひとくちに「葬式」と言っても日本の仏式葬式にはいくつもの宗派があります。その宗派の違いによって、祭壇の飾りや席の配置、作法、儀礼、お経などに違いが出てきます。今回はそれぞれの宗派のお葬式の歴史と意義をいくつか紹介していきます。



それぞれの主な宗派

宗派は有名なものからローカルなものまでいろいろあります。主な宗派としては「天台宗」「真言宗」「日蓮宗」「浄土宗」「浄土真宗」などがあります。他の宗派によっては教学がメインであるため、葬儀は行わないというものもあります。宗派が変われば争議の形、手順なども違ってきます。普段はあまり意識することがない人も、お葬式ではやはり意識しないと正しい手順でお葬式を執り行うことができません。普段から自分の実家が何宗に属しているのかを確認しておくのもよいでしょう。



天台宗

延暦寺を総本山とする宗派で、信仰の山として比叡山があります。天台宗のお葬式には5つの式があります。「剃度式」故人の浄土へ向かう前段階として、身なりを整えます。遺体を水と香で清めた後に髪を剃ります。剃度式は煩悩を除去する儀式として行われます。ただ実際に髪を剃るということはあまり行われてはいません。あくまで煩悩を取り去るという儀式を行うだけです。「誦経式」阿弥陀経を唱えて、その功徳によって悟りに至ることを祈念します。「引導式」光明供(天台宗の式文)を中心に故人に法語(仏の教え)を与え、仏の国と教えを諭します。仏の教えにより、必ず故人が成仏することを旅立ちのはなむけとして言い渡します。「行列式」故人が西方の極楽浄土を向いて進んでいく儀式です。「三昧式」故人が安定した境地に入ることを表現する儀式です。式主催者及び参列者が法華経を唱え三昧になることを目的に行います。
お葬式の流れとしては「臨終誦経」→「通夜誦経」→「剃度式」→「葬儀」→「導師入場」→「列賛~奠茶」→「引導~下炬」→「弔辞拝受~出棺」となります。



真言宗

真言宗は空海が開いた宗派です。密教としても有名で「空」という部分に言葉に出来ない教えが存在しているという発想です。この部分を習得することで仏の教えを習得できるとされています。即身成仏の教えでも有名で、自力本願の宗派です。本尊は大日如来です。
お葬式の考え方は密教ゆえ、他の宗派と少し異なるところもあります。
流れとして「枕経を唱える」「灌頂を行う」→この後からお葬式が始まります。「入堂」→「塗香、三密観、護身法、加持香水の法」→「三礼、表白、神分、声明」→「剃髪、受戒」→「引導」→「焼香」→「退堂」となります。
真言宗ではお焼香は3回です。


仏壇にお線香

日蓮宗

日蓮宗の開祖は日蓮聖人です。お題目の「南無妙法蓮華経」を唱えることが重要視されています。繰り返し唱えることによって、法華経への信心の深さを示すことができ、死後は「霊山浄土」で釈迦に会って成仏できるというのが、日蓮宗の教えです。
お葬式においても「南無妙法蓮華経」と唱えることが重要で、葬儀の最後にもお題目が唱えられます。葬儀でお題目を唱えることによって、故人の生前の信心を讃え、故人が無事霊山浄土にたどり着き成仏する手助けができるので、参列者にとっても功徳を積む修行となります。
葬儀の流れとしては、「総礼」→「道場偈」→「勧請」→「開経偈」→「読経」→「唱題」そして最後にも「南無妙法蓮華経」と唱えます。
焼香は導師が3回、一般参列者が1~3回です。



浄土宗

浄土宗は法然上人により開かれました。本尊は阿弥陀如来です。総本山は知恩院です。経典は「浄土三部経」、「南無阿弥陀仏」と唱えます。教えは、阿弥陀仏の救いを信じて「南無阿弥陀仏」と念仏を唱えれば、必ず浄土に往生できる、というものです。
念仏により極楽浄土へ行くことを「他力」といいます。他力本願とは阿弥陀仏の絶対的な力を信じ頼りきるということです。 葬儀は「奉請」→「懺悔」→「剃度作法・十念」→「三帰三寛」→「授与戒名」→「開経偈」→「誦経」→「発願文」→「摂益文」→「念仏一会」→「回向」となります。焼香は3回です。香典には「ご霊前」「ご香典」と書きます。



浄土真宗

法然上人の弟子の親鸞聖人が開いた宗派です。法然上人の教えを継承する形で発展していった宗派です。最大宗派は「浄土真宗本願寺派」と「真宗大谷派(東本願寺)」があります。浄土真宗では生前信心していると、亡くなりしだいすぐに阿弥陀仏によって極楽浄土へ導かれ、仏となれる、という教えのため、成仏を祈るといった葬儀の意味合いではありません。故人と永遠に別れるという概念がなく「告別式」などとは言いません。礼拝、拠り所の対象はあくまで「阿弥陀如来」で、遺体を礼拝の対象とはしないのが特徴です。
臨終すると「末期の水」を飲ませるというのが一般的におこなわれますが、浄土真宗では行いません。また戒名という考えもなく、法名というものを貰います。
納棺の際にも「死装束」を着させることもありません。すぐに浄土へ行けるので、さまよう心配がないからです。また迷信を拠り所としない宗派でもあるので、友引に葬儀をしても構わないとされています。清めの塩も、死をけがれとしないとして、必要ありません。
葬儀の進行に関しては、本願寺派と大谷派で異なります。
本願寺派では「鏧を打ち上げ」→「導師焼香」→「鏧を打ち下ろす」→「表白を拝読」→「出棺勤行」→「正信偈」となります。

大谷派は「合唱礼拝」→「伽陀を歌う」→「勧衆偈」→「なまだぶ(短念仏)10回」→「回向」→「三匝鈴を打ちながら表白」→「正信偈」となります。